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連載小説
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花火の子 −禾耶−
 「花火を打ち上げたいの」
 わたしとあなたの子を母星に送りたいの、と禾耶は言う。
 母星の正確な位置はどの移民星にも記録が残っていない。
 「だから捜したいの。おおきな花火を打ち上げて、わたし達はここにいる、あなた達を捜している、と声を上げたいの」
 我々の暮すこの星には「母星」がある。それはかつては母星神話と呼ばれるおとぎ話で、いまでは学者達が真面目にデータを取り研究する事実になっている。
 星間通信技術の発達に伴って近隣の星々でも情報交換が活発に行われるようになり、遺跡の共通点などから自分達の祖先が同じであることを知った人々は自分達の星を移民星と呼ぶようになっていた。移民星の多くは、間に戦争を挟んだりしながらもそれなりに足並みをそろえ、さまざまな方法で母星探索を試みていた。もっとも新しいのが、禾耶が立案した「花火」だ。
 母星があると推測される方向に移民星からできるだけ多くのカプセルを打ち上げる。これまでの母星探索船と異なる点は、人工頭脳とカプセルの識別番号を組み込んだ通信機器、そして精子と卵子を積みこんで、ある程度以上母星に近づいたと計測された時点で受精を開始するというシステムだ。
 禾耶は言う。わたしが探索船に乗ったところで、データから見て、きっと母星にたどり着くまえに命がつきてしまう。だからわたし達の子を、種の状態で飛ばすの。
 「生まれた子にはふつうの子とおなじような教育をほどこすの。わたし達の星のことや母星のこと、ほかにもいろんなことを教えるわ。カプセルがどういうものなのか、なんのためにカプセルが打ち上げられたのかも教える。そうするうちに、きっと彼らはたくさんの疑問を持つわ。ここはどこ? 自分はなぜここにいる? 母星とはなに? おなじように飛んでいるカプセルがあることを知った彼らは、きっと互いに尋ねあって、答えを求めながら旅をする。花火の通信は最優先信号を同時に発信する設定になっているから、その疑問だらけの通信は星々を流れて、いつかどこかに届く。とおい昔にわたし達が母星からの通信を受けとったように、いつかどこかで、だれかが彼らの声を聞くの」
 それが花火なの。
 人の思いを、もっと知りたいという願いを発信しながら飛ぶ花火。
 カプセル本体が母星に届く確率は高くないだろうけれど、たとえカプセルが母星に届かなくても、わたし達の子が放つ願いの光は、いつか、だれかが受けとめるわ。
11/07/14 00:57更新 / blueblack
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