ブラコン兄貴×無愛想な弟
「弟が欲しい」と言ったら父は困った顔で笑った。
「弟や妹は、お父さんとお母さんがいないとできないんだよ」と教えてくれた。
「そうか。うちはお母さんいないもんね」と優は納得して
「それじゃあ、望遠鏡が欲しい」
と、誕生日のプレゼントを変更した。
それから3ヶ月経ったクリスマスに、優には本当に弟が出来た。
後で知った事だが、離婚して、1人で頑張っていた母の所に、
父が土下座しに行ったのだ。
もしかしたら、そのきっかけを作ったのは自分の一言だったかもしれない。
母と弟が一遍に出来て、優に今までで最高のクリスマスだった。
弟はまだハイハイしてる赤ちゃんだったけど、優が「こんにちは」と言ったら
ニコッと笑った。
「名前は賢って言うのよ。仲良くしてあげてね」
母に言われなくても、優には当然の事だった。賢は小さくて、
プニプニしてて、可愛くて、甘い匂いがした。
「賢。お兄ちゃんだよ。よろしくね」
「賢」
あれから15年。小さかった賢は家族の誰よりも大きくなって、
増々可愛くなった。華奢であっさり和風顔の優と違って、大柄で筋肉質で、
鋭角的な顔の男前だ。口数が少ない割に、言う事がキツイので、
学校では怖がられているみたいだが、優にしてみれば、可愛い可愛い弟だ。
「もう7時だよ」
獣のうなり声を上げて、布団がモゾモゾ動く。
優は優の隣に膝をついて、そっと布団を剥いで、賢の顔を覗き込んだ。
「賢。起きなさい」
バチッと音を立てて目が開いた、と思える位急に目が開いて、
そのまま何秒か硬直していた。
「賢?」
優の言葉に、我に返ったように、賢は布団をバッと取り返して、
優から顔を背けて、頭から被り直した。
優は溜め息をついた。
この頃賢の様子が変だ。
今までも、優に突っかかったりはあったが、こんな風に、拒絶する事はなかった。
背が伸び始めた頃から、態度がおかしくなって、優はどうして良いか分からない。
それでも、問い詰めても良くないと思って、なるべく普通でいようと思う。
「御飯出来てるから。早く食べないと遅刻するよ」
「賢、お代わりは?」
答えの代わりに茶碗が突き出される。
食事の支度は優の仕事だ。父はホテルのチーフコンシェルジュ、
母はフリーのメーキャップアーティスト、どちらも夜が遅い仕事なので
朝食は兄弟2人だけで食べる。
弟の皿におかずが無くなっているのを見て、優は鍋から煮豆を取り分けた。
賢は黙々と食べている。
やっぱり可愛い。
最近、何を考えてるのか分からない事も多いけど、それでも可愛い。
視線に気が付いたらしく、賢が目を上げた。
ジッと見ている。優は居心地が悪くなってきた。
「賢、晩御飯何が食べたい?」
「・・・」
「好きな物言ってよ。カレーがいい?コロッケ?マーボー豆腐?」
「・・・」
「賢、カニコロッケ好きだったよね。今日はカニコロッケにしようか?」
「兄貴」
「何?」
「晩飯いらないから」
「えっ、何故?」
「友達ン家泊まる」
外泊なんて始めてだ。
それも、1晩だけじゃなく、今日でもう3日も。
父と母には言ったのだが、「あいつも色気づいて来たのね。一丁前に」と
母が笑い飛ばしたので、それ以上言えなかった。
学校にはちゃんと行ってるらしいので、父も大目に見ているようだ。
優は外泊した事がない。
家事が優の分担だからという事もあって、少しでも遅くなると、
賢がちゃんと御飯を食べているか心配になって、
遊んでいても楽しくないのだ。だから学校でもずっと帰宅部だった。
学校の帰りにスーパーに寄って、晩御飯のメニューを考えながら、
買い物をするのが優の楽しみだったのだ。
賢が小さい頃は、家で留守番させるのが可哀想で、
一旦家に帰ってから、一緒に買い物に行った。
「何かマズイ事しちゃったのかなあ・・・」
「お兄ちゃん」とキラキラした目で自分を見上げていた、小さい頃の
賢を思い出して、優はまた溜め息をついた。
可愛い可愛い弟。
でも弟は兄を疎ましいと思っているんだろうか。
「そう言えば・・・やってる時に踏み込んじゃった事あったっけ」
弟ももう高校生なのだ。親兄弟に知られたく無い事だってあるだろう。
それでも、優にしてみれば、賢はいつまでも可愛い小さい弟で、
ついうっかり、声をかけないでフスマを開けてしまった事があるのだ。
タイミングの悪い事に、賢は布団に座り込んで、ズボンを下ろして、
自分のモノを握って・・・致している最中だったのだ。
「あれは、見ない振りしてやるべきだったか・・・」
その時不思議な事に優が感じたのは、感動だったのだ。
小さい可愛い賢が、いつの間にか一緒に風呂に入ってくれなくなったと
思っていたら、そんな事をするようになっていた。
硬直する弟をよそに、優は落ち着いた気分で部屋を見回した。
オカズらしき物は見当たらなかった。
それで、ついうっかり、言ってしまったのだ。
「いい本あるけど、貸そうか?」と。
「あれで賢、ひいたかなー」
あれ以来、賢の態度が更に硬化した気がする。
だからと言って、ああいう時、兄としてはどうしたら良かったのだろう。
「有無を言わさず握ってイカせて、ギャグに持ち込んだ方が良かったのかなあ」
鬱々と考え込んでいる優を現実に引き戻すように、
電話が鳴った。
「はい。いや、あいつ、ここ数日家に帰って来てなく・・・え?」
電話をかけて来たのは賢の友達だった。賢が自分の家にいるが、
ずっと落ち込んでいて、メソメソして鬱陶しいので引き取れ、と言う。
ブスッとした賢は知っていても、メソメソしている所なんて
知らない優は驚いたが、ともかく、その子の指定したファミレスに急いだ。
「賢、お兄さんと血が繋がってないんですって?」
開口一番のセリフに優は絶句した。
「あいつすごい落ち込んでるんですよ。兄貴が自分に気を使い過ぎてて、
申し訳ないって。血の繋がってない弟の面倒見てばっかりで、
自分の時間が無いって。そうなんですか?」
「それはあいつの勘違いです。あいつと俺とはちゃんと血の繋がった兄弟だ」
「でもあいつ思い込んでますよ。自分は半分しか血が繋がって無いって」
「誰がそんなデマあいつに吹き込んだんだ!
あいつと俺は半分どころか100%同じ血が流れてます!」
思わず机を叩いて力説する優に、賢の友達は目を白黒させながら答えた。
「俺もそう思います。お兄さんの、焦った時の声、あいつそっくりだ」
「ここにあいつ呼び出してるんで、ちゃんと話し合って下さいね」
賢の友達に言われて、ファミレスの薄いコーヒーを2杯飲み干す頃に、
見慣れた顔が現れた。バッチリ目が合う。クルッと踵を返して逃げようとする
賢に向かって、優は、「待ちなさい」と、冷たい声をかけた。
本当に怒った時にしか出ない声を賢も知っている。オズオズとやって来た。
テーブルの向かいに座って、唇を噛んでいる。
「説明しなさい。誰と誰が他人だって?」
ビクッと肩を震わせて目を落とす。
「答えなさい。賢。俺と賢は他人なのか?誰がそんな事言った?」
「・・・誰も」
「それなら何故?」
「だって・・・似てないし」
「似てない?それだけ?」
「・・・」
「賢。ちゃんと目を見て物を言いなさい」
観念したように、賢が顔を上げる。そして一息に言い切った。
「だって俺見たんだ。戸籍抄本。俺母さんの連れ子だろう。
兄貴とは血、半分しか繋がってないじゃないか」
「・・・え?」
「家族の中で俺だけデカイし!似てなさ過ぎるから戸籍見たんだよ。
そしたら養子だった・・・父さんと母さん1度離婚してたんだろ?
俺、離婚してる時に出来た子なんだろ?」
顔を真っ赤にして喋る賢のセリフを優はジッと聞いていた。
そして・・・クックッと笑い出した。
「なッ、何で笑うんだよ!」
「だって賢・・・お前、そんな事で拗ねてたのか」
「拗ねてない!」
「あのな。お前はちゃんと父さんと母さんの子だよ。
お前、あの人達が何故離婚したかの理由聞いてる?」
賢が首を振る。
「じゃあ、あの人達が出来婚て知ってた?」
「えっ」
「後、母さんが一時期女優だったのは?」
目を見張る賢に優は苦笑した。
「全く、何にも説明してないのな。あの人達。
母さんが俺を妊娠して結婚したんだよ。母さんは劇団員だった。
俺が1才の頃にブレークしたんだ。だけど、清純派で売れたんで、
偽装離婚したんだよ。確かに、母さんは一時期父さんを
恨んでたかも知れない。事務所の圧力に負けたって言って。
だけどずっと付き合ってた。だから大丈夫。お前はあの2人の子供だよ。
第一、お前1人デカいって言うけど、お前の骨格、
父さんの方の祖父ちゃんにそっくりだよ。眉の形も」
賢が注文した紅茶はすっかり冷めてしまっていた。
「賢」
俯いたまま身体を丸めている可愛い可愛い弟。
図体ばかり大きくなったが、根っこは可愛い、小さい弟だ。
頭を撫でてやると、びっくりしたみたいに顔を上げた。
「俺はこれから晩御飯の買い物して帰るから。お前もちゃんと
家に帰って来なさい。いいね?」
「・・・」
暫く俯いていたが、賢はコクンと首を縦に振った。優は満足げに頷く。
「よしよし。今日はお前の好きなカニコロッケにするから」
優がファミレスを出た後、賢は大きな大きな溜め息をついた。
「・・・詐欺だ・・・」
呻くような声。
「あの人は・・・血の繋がりが無いって思ってて、人があんなに
悩んでたのに・・・いともアッサリ・・・」
目の前のティーカップに呪詛の言葉を投げ付ける。
「血、繋がってたなんて・・・半分じゃなくて、全部繋がってたなんて
・・・障害が倍ってことじゃんかよ・・・」
「弟や妹は、お父さんとお母さんがいないとできないんだよ」と教えてくれた。
「そうか。うちはお母さんいないもんね」と優は納得して
「それじゃあ、望遠鏡が欲しい」
と、誕生日のプレゼントを変更した。
それから3ヶ月経ったクリスマスに、優には本当に弟が出来た。
後で知った事だが、離婚して、1人で頑張っていた母の所に、
父が土下座しに行ったのだ。
もしかしたら、そのきっかけを作ったのは自分の一言だったかもしれない。
母と弟が一遍に出来て、優に今までで最高のクリスマスだった。
弟はまだハイハイしてる赤ちゃんだったけど、優が「こんにちは」と言ったら
ニコッと笑った。
「名前は賢って言うのよ。仲良くしてあげてね」
母に言われなくても、優には当然の事だった。賢は小さくて、
プニプニしてて、可愛くて、甘い匂いがした。
「賢。お兄ちゃんだよ。よろしくね」
「賢」
あれから15年。小さかった賢は家族の誰よりも大きくなって、
増々可愛くなった。華奢であっさり和風顔の優と違って、大柄で筋肉質で、
鋭角的な顔の男前だ。口数が少ない割に、言う事がキツイので、
学校では怖がられているみたいだが、優にしてみれば、可愛い可愛い弟だ。
「もう7時だよ」
獣のうなり声を上げて、布団がモゾモゾ動く。
優は優の隣に膝をついて、そっと布団を剥いで、賢の顔を覗き込んだ。
「賢。起きなさい」
バチッと音を立てて目が開いた、と思える位急に目が開いて、
そのまま何秒か硬直していた。
「賢?」
優の言葉に、我に返ったように、賢は布団をバッと取り返して、
優から顔を背けて、頭から被り直した。
優は溜め息をついた。
この頃賢の様子が変だ。
今までも、優に突っかかったりはあったが、こんな風に、拒絶する事はなかった。
背が伸び始めた頃から、態度がおかしくなって、優はどうして良いか分からない。
それでも、問い詰めても良くないと思って、なるべく普通でいようと思う。
「御飯出来てるから。早く食べないと遅刻するよ」
「賢、お代わりは?」
答えの代わりに茶碗が突き出される。
食事の支度は優の仕事だ。父はホテルのチーフコンシェルジュ、
母はフリーのメーキャップアーティスト、どちらも夜が遅い仕事なので
朝食は兄弟2人だけで食べる。
弟の皿におかずが無くなっているのを見て、優は鍋から煮豆を取り分けた。
賢は黙々と食べている。
やっぱり可愛い。
最近、何を考えてるのか分からない事も多いけど、それでも可愛い。
視線に気が付いたらしく、賢が目を上げた。
ジッと見ている。優は居心地が悪くなってきた。
「賢、晩御飯何が食べたい?」
「・・・」
「好きな物言ってよ。カレーがいい?コロッケ?マーボー豆腐?」
「・・・」
「賢、カニコロッケ好きだったよね。今日はカニコロッケにしようか?」
「兄貴」
「何?」
「晩飯いらないから」
「えっ、何故?」
「友達ン家泊まる」
外泊なんて始めてだ。
それも、1晩だけじゃなく、今日でもう3日も。
父と母には言ったのだが、「あいつも色気づいて来たのね。一丁前に」と
母が笑い飛ばしたので、それ以上言えなかった。
学校にはちゃんと行ってるらしいので、父も大目に見ているようだ。
優は外泊した事がない。
家事が優の分担だからという事もあって、少しでも遅くなると、
賢がちゃんと御飯を食べているか心配になって、
遊んでいても楽しくないのだ。だから学校でもずっと帰宅部だった。
学校の帰りにスーパーに寄って、晩御飯のメニューを考えながら、
買い物をするのが優の楽しみだったのだ。
賢が小さい頃は、家で留守番させるのが可哀想で、
一旦家に帰ってから、一緒に買い物に行った。
「何かマズイ事しちゃったのかなあ・・・」
「お兄ちゃん」とキラキラした目で自分を見上げていた、小さい頃の
賢を思い出して、優はまた溜め息をついた。
可愛い可愛い弟。
でも弟は兄を疎ましいと思っているんだろうか。
「そう言えば・・・やってる時に踏み込んじゃった事あったっけ」
弟ももう高校生なのだ。親兄弟に知られたく無い事だってあるだろう。
それでも、優にしてみれば、賢はいつまでも可愛い小さい弟で、
ついうっかり、声をかけないでフスマを開けてしまった事があるのだ。
タイミングの悪い事に、賢は布団に座り込んで、ズボンを下ろして、
自分のモノを握って・・・致している最中だったのだ。
「あれは、見ない振りしてやるべきだったか・・・」
その時不思議な事に優が感じたのは、感動だったのだ。
小さい可愛い賢が、いつの間にか一緒に風呂に入ってくれなくなったと
思っていたら、そんな事をするようになっていた。
硬直する弟をよそに、優は落ち着いた気分で部屋を見回した。
オカズらしき物は見当たらなかった。
それで、ついうっかり、言ってしまったのだ。
「いい本あるけど、貸そうか?」と。
「あれで賢、ひいたかなー」
あれ以来、賢の態度が更に硬化した気がする。
だからと言って、ああいう時、兄としてはどうしたら良かったのだろう。
「有無を言わさず握ってイカせて、ギャグに持ち込んだ方が良かったのかなあ」
鬱々と考え込んでいる優を現実に引き戻すように、
電話が鳴った。
「はい。いや、あいつ、ここ数日家に帰って来てなく・・・え?」
電話をかけて来たのは賢の友達だった。賢が自分の家にいるが、
ずっと落ち込んでいて、メソメソして鬱陶しいので引き取れ、と言う。
ブスッとした賢は知っていても、メソメソしている所なんて
知らない優は驚いたが、ともかく、その子の指定したファミレスに急いだ。
「賢、お兄さんと血が繋がってないんですって?」
開口一番のセリフに優は絶句した。
「あいつすごい落ち込んでるんですよ。兄貴が自分に気を使い過ぎてて、
申し訳ないって。血の繋がってない弟の面倒見てばっかりで、
自分の時間が無いって。そうなんですか?」
「それはあいつの勘違いです。あいつと俺とはちゃんと血の繋がった兄弟だ」
「でもあいつ思い込んでますよ。自分は半分しか血が繋がって無いって」
「誰がそんなデマあいつに吹き込んだんだ!
あいつと俺は半分どころか100%同じ血が流れてます!」
思わず机を叩いて力説する優に、賢の友達は目を白黒させながら答えた。
「俺もそう思います。お兄さんの、焦った時の声、あいつそっくりだ」
「ここにあいつ呼び出してるんで、ちゃんと話し合って下さいね」
賢の友達に言われて、ファミレスの薄いコーヒーを2杯飲み干す頃に、
見慣れた顔が現れた。バッチリ目が合う。クルッと踵を返して逃げようとする
賢に向かって、優は、「待ちなさい」と、冷たい声をかけた。
本当に怒った時にしか出ない声を賢も知っている。オズオズとやって来た。
テーブルの向かいに座って、唇を噛んでいる。
「説明しなさい。誰と誰が他人だって?」
ビクッと肩を震わせて目を落とす。
「答えなさい。賢。俺と賢は他人なのか?誰がそんな事言った?」
「・・・誰も」
「それなら何故?」
「だって・・・似てないし」
「似てない?それだけ?」
「・・・」
「賢。ちゃんと目を見て物を言いなさい」
観念したように、賢が顔を上げる。そして一息に言い切った。
「だって俺見たんだ。戸籍抄本。俺母さんの連れ子だろう。
兄貴とは血、半分しか繋がってないじゃないか」
「・・・え?」
「家族の中で俺だけデカイし!似てなさ過ぎるから戸籍見たんだよ。
そしたら養子だった・・・父さんと母さん1度離婚してたんだろ?
俺、離婚してる時に出来た子なんだろ?」
顔を真っ赤にして喋る賢のセリフを優はジッと聞いていた。
そして・・・クックッと笑い出した。
「なッ、何で笑うんだよ!」
「だって賢・・・お前、そんな事で拗ねてたのか」
「拗ねてない!」
「あのな。お前はちゃんと父さんと母さんの子だよ。
お前、あの人達が何故離婚したかの理由聞いてる?」
賢が首を振る。
「じゃあ、あの人達が出来婚て知ってた?」
「えっ」
「後、母さんが一時期女優だったのは?」
目を見張る賢に優は苦笑した。
「全く、何にも説明してないのな。あの人達。
母さんが俺を妊娠して結婚したんだよ。母さんは劇団員だった。
俺が1才の頃にブレークしたんだ。だけど、清純派で売れたんで、
偽装離婚したんだよ。確かに、母さんは一時期父さんを
恨んでたかも知れない。事務所の圧力に負けたって言って。
だけどずっと付き合ってた。だから大丈夫。お前はあの2人の子供だよ。
第一、お前1人デカいって言うけど、お前の骨格、
父さんの方の祖父ちゃんにそっくりだよ。眉の形も」
賢が注文した紅茶はすっかり冷めてしまっていた。
「賢」
俯いたまま身体を丸めている可愛い可愛い弟。
図体ばかり大きくなったが、根っこは可愛い、小さい弟だ。
頭を撫でてやると、びっくりしたみたいに顔を上げた。
「俺はこれから晩御飯の買い物して帰るから。お前もちゃんと
家に帰って来なさい。いいね?」
「・・・」
暫く俯いていたが、賢はコクンと首を縦に振った。優は満足げに頷く。
「よしよし。今日はお前の好きなカニコロッケにするから」
優がファミレスを出た後、賢は大きな大きな溜め息をついた。
「・・・詐欺だ・・・」
呻くような声。
「あの人は・・・血の繋がりが無いって思ってて、人があんなに
悩んでたのに・・・いともアッサリ・・・」
目の前のティーカップに呪詛の言葉を投げ付ける。
「血、繋がってたなんて・・・半分じゃなくて、全部繋がってたなんて
・・・障害が倍ってことじゃんかよ・・・」
11/07/16 19:58更新 / blueblack