夜行急行でエチー 33-802
気が付くと青森行きの切符を握り締めていた。
『結婚しました』
と、その一言だけが直筆の、ワープロで印字されたそっけない転居の知らせ。
男同士で、どうにもならない事は分かってた。期待したりはしなかった。
あいつを追い掛けて同じ大学に入ったのだって俺の勝手。
だけど、それでも。
心の片隅の、どこかで俺は信じていたんだ。
いつか振り向いてくれるって。
別に青森じゃなくてもよかった。
あいつがどこかの女と一緒に暮してる、この東京から1メートルでも遠い
どこかへ行ってしまいたかった。そう思って後先考えずにアパートを飛び出して、
夜行列車の切符を買ったんだ。遠ければどこでもよかった。
青い線の入った白っぽい列車がホームに滑り込んで来る。
ずっしりと重い荷物を肩に担いで俺は乗車した。
デイパックの中には着替えの他に、弁当が2つと缶ビール、
それから缶のお茶まで5本も入っている。
乗車時間が長いから多めに用意しなさいと売店のおばさんに言われたのだ。
鬱々とした心境に不似合いな滑稽さに笑い出したくなる。
傷心旅行に出るというのに、弁当を2つも買い込んで、デイパックをパンパンに
膨れさせて、これじゃまるでやけ食いだ。
申し訳程度にしかリクライニングにならない2人掛けの固い座席に背中を預けて、
デイパックからウォークマンを取り出す。イヤホーンから流れるラブソング。
いつの時代もヒットするのは衒い無く愛を叫ぶ歌ばかり。
つと、目の前が陰った。
目を上げると、人の良さそうな微笑みを浮かべた、俺と同い年位のヤツが
立っていた。イヤホーンを耳から外して、「何ですか?」と聞く。
「ここ、いいですか?」
「どうぞ」
そいつは俺の前の座席に座ると、傍らに俺のと同じようなデイパックを置いた。
やはりパンパンになっている。こいつも弁当を2つ買っているんだろうか。
肩が細い。スポーツとかあんまりやってなさそうな、薄っぺらい体をしてる。
またイヤホーンをするのは失礼だろうかと迷っていると、声を掛けられた。
「帰省ですか?」
「いや、旅行しようと思って」
「大学生?」
頷いて1年だと言うと、ニコッと笑って自分は2年だと言った。
でも早生まれだからタメ口でいいと言った彼は高木繁と名乗った。
慌てて俺も自己紹介すると、カッコイイ名前だなと答える。
新島久継。継の字は書きにくくて子供の頃嫌いだったと呟いたら、
それは自分もだと言ってまた笑った。
「高木さんは・・・」
「繁でいいよ」
「繁さ・・・繁は、帰省?」
「そう。休みはいつも実家の手伝い。大鰐温泉ってトコだけど、知らないよな。
弘前の近く。久継はどこまで?」
「あ、青森」
「1人旅?」
「うん」
その時車内放送が出発を告げた。繁の言った地名は弘前の1つ前の停車駅らしい。
オオワニオンセンという間の抜けた響きが何故か懐かしい。
午後9時過ぎ。ゆっくりと、列車が走り出す。
繁は年上とは思えない位はしゃいだ人懐っこい奴だった。
俺が聴いていたウォークマンを一緒に聴きたがり、片耳ずつイヤホーンを
つけて聴いて、これは自分も好きな歌だとか、これはどうとか、
1曲ずつコメントをつける。そうこうしてる内に腹が鳴り出して、
俺達は顔を見合わせて笑って飯を食う事にした。
驚く事に、奴はおにぎりだけしか持っていなかった。しかも1つだ。
幾ら俺より小さいからといって、若い男がコンビニのおにぎり1つで
朝まで持たないだろう。家で食えるからと言うのを半ば無理矢理に弁当を
1つやり、ビールもつけてやると目を輝かせた。
「ウチ仕送り無しだから。けっこうキツキツなんだ」
帰りの切符代だけは親持ちだけど、と繁は2本目の缶ビールに手を伸ばしながら言う。
2人で3本のビールを開ける頃に、福島に着いた。
「せっかく停車時間10分以上あるんだから、外に出よう」
酔っぱらいに引っ張られてホームに出る。夏の夜だが夜風は涼しく、
火照った頬に心地良い。視線を感じて隣を見ると、繁がこっちを見てた。
視線が合うと、ニッと笑う。
「久継は、訳ありの旅行?」
「・・・えっ」
「上野出る時、随分難しい顔してたから。今も誰か思い出してたみたいだったし」
沈黙の後、俺は頷いた。ビールで気が弛んでたのかもしれない。
「うん」
屈託の無い笑顔を見てる内に、何だか自分の悩みがどうでもいい事のように思えて来た。
高校の時からあいつしか見えてなくて、友達も作らずにひたすら勉強して、
同じ大学に受かった時は天にも昇る心地でいたけど。
ただ見てるだけで良かったなんて、自分を誤魔化しながら。
こんなふうに、あいつ以外の人間を真正面から見る事を、
俺は随分長い間忘れてた気がする。
列車に戻ると、繁はデイパックをゴソゴソ探り始めた。
何をしてるのかと思ったら、出て来たのは薄手の布地。
「キャンプ用の防寒布だよ。薄いけど結構暖かい」
夜は冷えるから、と言って、そっち行って良い?と聞かれた。
隣同士に座って半分ずつ肩からかけた途端に体がフワッと暖かくなる。
子供みたいに高い体温だ。
アナウンスも無くなって、車内は静まり返っている。みんな、
後は眠るだけの体勢になっている。
それからどれだけ時間が経ったんだろう。
何度かウトウトして、何度目かに目を開けた時、繁の喉元が目の前にあった。
びっくりして固まってしまったが、どうやら肩からズリ落ちた布を
かけてくれようとしてたらしい。硬直した俺に気付いてクスッと笑い、
目を合わせた。
さっきより接近してる。
唇が開いて、小さく動いた。吐息だけで綴られる言葉。
「ごめん」
と━━━
その意味が分かるより先に、唇同士が重なった。
「つけ込むようなコト、して━━━」
「・・・ぅ」
膝の上に抱き上げる形で貫く姿を周囲から隠してるのは薄っぺらい布一枚。
込み上げる感覚をやりすごそうと唇を噛む繁は薄暗がりの中、
譬えようもなく美しい。
激しい動きはできないから、焦らすような緩慢な突き上げになる。
その代わり前に回した手は、いっそ意地悪な程に、繁から全てを絞り取ろうと
強く扱き立てる。ビクビクと跳ねる体を片手で押え付ける。
俺が動かなくても繁の腰は勝手に揺らめき、また列車の振動で思わぬ刺激を与える。
「ぁあっ・・あ、ん」
周りの乗客を起こさないようにと堪えれば堪えた分だけ快感は濃密になる。
こんな所でいつバレるかもしれないと思う背徳感もスパイスにしかならない。
ボックスタイプに区切られた車両は半密室のようなものだが、それでも6割方
埋まっている車両だ。通路を挟んだ隣には、40がらみのサラリーマン風が
窓に凭れ掛かるように眠っている。音は聞こえないだろうか。
この、繋がった所から漏れる卑猥な音は━━━
「・・・っ」
息を詰めて、2人一緒に最後の時を迎えた。
「えっマジうそっ」
終点を告げるアナウンスに繁が飛び起きた。外はもう明るい。
お互いに寄り添うように眠りこけていた。
「乗り越しちまった・・・」
呆然と窓の外を見詰める繁に、何と声をかけていいか分からず黙っていた。
1回で満足できなかった俺にも責任の一端はあるだろう。
「とりあえず、降りるか」
青森駅は何となく想像していた物淋しいイメージは欠片も無かった。
でも考えてみたら、俺のイメージは大昔の集団就職とか出稼ぎとかその程度だ。
繁はさっさとホームに降り立ち、あーあと溜め息をついている。
後ろから俺もホームに降りる。すっかり軽くなったデイパックを背負って。
キョロキョロ辺りを見回していた繁が俺に向き直った。
「久継はこれからどうする?」
「別に、予定はないけど」
「なら折角だから観光しようか」
「えっ、でもいいのか。実家」
「一日位いいよ」
そういって公衆電話を探しに行く後ろ姿を見遣りながら、俺は、
いつの間にか、心もすっかり軽く晴れやかになっていた事に気がついていた。
あれから10年が過ぎた。
俺達が乗った夜行急行は翌年に廃止になり、列車の中で聴いてた、
当時チャート1位だったグループももうとっくに解散した。
お茶は今ではペットボトル入りが主流だ。
変わっていないのは些細な事で落ち込んで突拍子も無い行動に出る
自分の性格と、そしてもう1つ。
「久継。今度いつ休み取れる?」
屈託無い笑顔を見せる、今は俺の人生の良き相棒となった1歳年上の男。
あの後1日一緒に青森観光をして、別れ際に電話番号を交換して。
「わんにゃんパラダイスって犬猫の遊園地みたいなトコが新しく
出来たんだって。サルーキって知ってる?俺本物見た事ないんだよな」
どうやらテレビで仕入れたらしい情報を目を輝かせて語って来る。
10年経っても変わらない、自分の方がよっぽど犬みたいな人懐っこさと、
全開の笑顔。
最初は休みの度に会うだけだったのが、いつしか同じ夢を見るようになり、
同じ会社に就職し、今では一緒に暮している。
「なあ久継。わんにゃんパラダイス!」
「分かった分かった」
尻尾を振り立てる子犬を抱くように、首根っ子を捕まえて抱き締める。
あの時と殆ど変わらない細い体。
その首筋に鼻を擦り付けながら、余りにも陳腐なフレーズを実感している。
お前に、会えて、よかった━━━
『結婚しました』
と、その一言だけが直筆の、ワープロで印字されたそっけない転居の知らせ。
男同士で、どうにもならない事は分かってた。期待したりはしなかった。
あいつを追い掛けて同じ大学に入ったのだって俺の勝手。
だけど、それでも。
心の片隅の、どこかで俺は信じていたんだ。
いつか振り向いてくれるって。
別に青森じゃなくてもよかった。
あいつがどこかの女と一緒に暮してる、この東京から1メートルでも遠い
どこかへ行ってしまいたかった。そう思って後先考えずにアパートを飛び出して、
夜行列車の切符を買ったんだ。遠ければどこでもよかった。
青い線の入った白っぽい列車がホームに滑り込んで来る。
ずっしりと重い荷物を肩に担いで俺は乗車した。
デイパックの中には着替えの他に、弁当が2つと缶ビール、
それから缶のお茶まで5本も入っている。
乗車時間が長いから多めに用意しなさいと売店のおばさんに言われたのだ。
鬱々とした心境に不似合いな滑稽さに笑い出したくなる。
傷心旅行に出るというのに、弁当を2つも買い込んで、デイパックをパンパンに
膨れさせて、これじゃまるでやけ食いだ。
申し訳程度にしかリクライニングにならない2人掛けの固い座席に背中を預けて、
デイパックからウォークマンを取り出す。イヤホーンから流れるラブソング。
いつの時代もヒットするのは衒い無く愛を叫ぶ歌ばかり。
つと、目の前が陰った。
目を上げると、人の良さそうな微笑みを浮かべた、俺と同い年位のヤツが
立っていた。イヤホーンを耳から外して、「何ですか?」と聞く。
「ここ、いいですか?」
「どうぞ」
そいつは俺の前の座席に座ると、傍らに俺のと同じようなデイパックを置いた。
やはりパンパンになっている。こいつも弁当を2つ買っているんだろうか。
肩が細い。スポーツとかあんまりやってなさそうな、薄っぺらい体をしてる。
またイヤホーンをするのは失礼だろうかと迷っていると、声を掛けられた。
「帰省ですか?」
「いや、旅行しようと思って」
「大学生?」
頷いて1年だと言うと、ニコッと笑って自分は2年だと言った。
でも早生まれだからタメ口でいいと言った彼は高木繁と名乗った。
慌てて俺も自己紹介すると、カッコイイ名前だなと答える。
新島久継。継の字は書きにくくて子供の頃嫌いだったと呟いたら、
それは自分もだと言ってまた笑った。
「高木さんは・・・」
「繁でいいよ」
「繁さ・・・繁は、帰省?」
「そう。休みはいつも実家の手伝い。大鰐温泉ってトコだけど、知らないよな。
弘前の近く。久継はどこまで?」
「あ、青森」
「1人旅?」
「うん」
その時車内放送が出発を告げた。繁の言った地名は弘前の1つ前の停車駅らしい。
オオワニオンセンという間の抜けた響きが何故か懐かしい。
午後9時過ぎ。ゆっくりと、列車が走り出す。
繁は年上とは思えない位はしゃいだ人懐っこい奴だった。
俺が聴いていたウォークマンを一緒に聴きたがり、片耳ずつイヤホーンを
つけて聴いて、これは自分も好きな歌だとか、これはどうとか、
1曲ずつコメントをつける。そうこうしてる内に腹が鳴り出して、
俺達は顔を見合わせて笑って飯を食う事にした。
驚く事に、奴はおにぎりだけしか持っていなかった。しかも1つだ。
幾ら俺より小さいからといって、若い男がコンビニのおにぎり1つで
朝まで持たないだろう。家で食えるからと言うのを半ば無理矢理に弁当を
1つやり、ビールもつけてやると目を輝かせた。
「ウチ仕送り無しだから。けっこうキツキツなんだ」
帰りの切符代だけは親持ちだけど、と繁は2本目の缶ビールに手を伸ばしながら言う。
2人で3本のビールを開ける頃に、福島に着いた。
「せっかく停車時間10分以上あるんだから、外に出よう」
酔っぱらいに引っ張られてホームに出る。夏の夜だが夜風は涼しく、
火照った頬に心地良い。視線を感じて隣を見ると、繁がこっちを見てた。
視線が合うと、ニッと笑う。
「久継は、訳ありの旅行?」
「・・・えっ」
「上野出る時、随分難しい顔してたから。今も誰か思い出してたみたいだったし」
沈黙の後、俺は頷いた。ビールで気が弛んでたのかもしれない。
「うん」
屈託の無い笑顔を見てる内に、何だか自分の悩みがどうでもいい事のように思えて来た。
高校の時からあいつしか見えてなくて、友達も作らずにひたすら勉強して、
同じ大学に受かった時は天にも昇る心地でいたけど。
ただ見てるだけで良かったなんて、自分を誤魔化しながら。
こんなふうに、あいつ以外の人間を真正面から見る事を、
俺は随分長い間忘れてた気がする。
列車に戻ると、繁はデイパックをゴソゴソ探り始めた。
何をしてるのかと思ったら、出て来たのは薄手の布地。
「キャンプ用の防寒布だよ。薄いけど結構暖かい」
夜は冷えるから、と言って、そっち行って良い?と聞かれた。
隣同士に座って半分ずつ肩からかけた途端に体がフワッと暖かくなる。
子供みたいに高い体温だ。
アナウンスも無くなって、車内は静まり返っている。みんな、
後は眠るだけの体勢になっている。
それからどれだけ時間が経ったんだろう。
何度かウトウトして、何度目かに目を開けた時、繁の喉元が目の前にあった。
びっくりして固まってしまったが、どうやら肩からズリ落ちた布を
かけてくれようとしてたらしい。硬直した俺に気付いてクスッと笑い、
目を合わせた。
さっきより接近してる。
唇が開いて、小さく動いた。吐息だけで綴られる言葉。
「ごめん」
と━━━
その意味が分かるより先に、唇同士が重なった。
「つけ込むようなコト、して━━━」
「・・・ぅ」
膝の上に抱き上げる形で貫く姿を周囲から隠してるのは薄っぺらい布一枚。
込み上げる感覚をやりすごそうと唇を噛む繁は薄暗がりの中、
譬えようもなく美しい。
激しい動きはできないから、焦らすような緩慢な突き上げになる。
その代わり前に回した手は、いっそ意地悪な程に、繁から全てを絞り取ろうと
強く扱き立てる。ビクビクと跳ねる体を片手で押え付ける。
俺が動かなくても繁の腰は勝手に揺らめき、また列車の振動で思わぬ刺激を与える。
「ぁあっ・・あ、ん」
周りの乗客を起こさないようにと堪えれば堪えた分だけ快感は濃密になる。
こんな所でいつバレるかもしれないと思う背徳感もスパイスにしかならない。
ボックスタイプに区切られた車両は半密室のようなものだが、それでも6割方
埋まっている車両だ。通路を挟んだ隣には、40がらみのサラリーマン風が
窓に凭れ掛かるように眠っている。音は聞こえないだろうか。
この、繋がった所から漏れる卑猥な音は━━━
「・・・っ」
息を詰めて、2人一緒に最後の時を迎えた。
「えっマジうそっ」
終点を告げるアナウンスに繁が飛び起きた。外はもう明るい。
お互いに寄り添うように眠りこけていた。
「乗り越しちまった・・・」
呆然と窓の外を見詰める繁に、何と声をかけていいか分からず黙っていた。
1回で満足できなかった俺にも責任の一端はあるだろう。
「とりあえず、降りるか」
青森駅は何となく想像していた物淋しいイメージは欠片も無かった。
でも考えてみたら、俺のイメージは大昔の集団就職とか出稼ぎとかその程度だ。
繁はさっさとホームに降り立ち、あーあと溜め息をついている。
後ろから俺もホームに降りる。すっかり軽くなったデイパックを背負って。
キョロキョロ辺りを見回していた繁が俺に向き直った。
「久継はこれからどうする?」
「別に、予定はないけど」
「なら折角だから観光しようか」
「えっ、でもいいのか。実家」
「一日位いいよ」
そういって公衆電話を探しに行く後ろ姿を見遣りながら、俺は、
いつの間にか、心もすっかり軽く晴れやかになっていた事に気がついていた。
あれから10年が過ぎた。
俺達が乗った夜行急行は翌年に廃止になり、列車の中で聴いてた、
当時チャート1位だったグループももうとっくに解散した。
お茶は今ではペットボトル入りが主流だ。
変わっていないのは些細な事で落ち込んで突拍子も無い行動に出る
自分の性格と、そしてもう1つ。
「久継。今度いつ休み取れる?」
屈託無い笑顔を見せる、今は俺の人生の良き相棒となった1歳年上の男。
あの後1日一緒に青森観光をして、別れ際に電話番号を交換して。
「わんにゃんパラダイスって犬猫の遊園地みたいなトコが新しく
出来たんだって。サルーキって知ってる?俺本物見た事ないんだよな」
どうやらテレビで仕入れたらしい情報を目を輝かせて語って来る。
10年経っても変わらない、自分の方がよっぽど犬みたいな人懐っこさと、
全開の笑顔。
最初は休みの度に会うだけだったのが、いつしか同じ夢を見るようになり、
同じ会社に就職し、今では一緒に暮している。
「なあ久継。わんにゃんパラダイス!」
「分かった分かった」
尻尾を振り立てる子犬を抱くように、首根っ子を捕まえて抱き締める。
あの時と殆ど変わらない細い体。
その首筋に鼻を擦り付けながら、余りにも陳腐なフレーズを実感している。
お前に、会えて、よかった━━━
11/07/16 19:54更新 / blueblack