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七 賛美歌 二篇 五二番

  われらはきたりぬ はるけき国より
  星にみちびかれ 野山こえて
  ああ 奇しくかがやく 星の光よ、
  われらをみちびけ み子のみもとに


 「――おちついた?」

 ぐったりしているみぎわに、幹が声をかける。
 いくらか顔が青ざめて見えるのは気のせいだけではないだろう。
 「ま、ちゃんと牙つかえてよかったってことで」
 首をなでながら幹が言って、みぎわは思いだしてしまった。幹の喉もとにすがりついて血をすすりこみ、そのうちに、じぶんの歯が――牙が幹の肉にめりこんだその感触を。
 頭をかかえてしまう。

 「はじめてのご感想は」
 「――う」

 うめいて、声が出ることにおどろく。
 「栄養補給したから」
 こともなげに翠が言う。

 「なん‥‥なんですかいまのは」
 「栄養補給」
 「授乳、かな、むしろ。血がたりなくなってみぎわくん、声出なくなってたでしょ」
 「って‥‥」
 「吸血鬼だろう」
 「翠さん」
 説明にならないことばを投げてくる翠を、幹はにが笑いをうかべてさえぎる。みぎわに向きなおって、笑ってみせる。

 「あのね。みぎわくん吸血鬼でしょ」
 「――だれ、が」
 「無自覚馬鹿」
 翠が横から口をはさむ。まあまあとおさえようとする幹を無視して、じぶんのくちびるをもちあげ、ぐいと歯をむきだす。その、犬歯。その――
 「おまえのといっしょ」
 「鏡があればね。みぎわくんもじぶんのこと見られるんだけど」

 鏡、なんて必要じゃなかった。じぶんの舌がふれる、いつもとちがう感覚に、とっくにみぎわは気づいていた。さっき幹に裂かれた肉から生えている、犬歯のあるべきところに、下唇を傷つけるほどに伸びきって、とがっている、それは翠のものとおなじかたちをしているのだろう。

 その、牙。ほかの歯の二倍ほどの長さのそれは毒蛇の牙のように、細くするどい。鏡を見なくても。鏡、を。見たくなんかない。

 じぶんの思いにひたりこんでいたみぎわに、ち、と舌をならし、翠が幹のとなりにまわりこむ。白い腕が幹の腕をとらえ、ふりむかせる。幹が応えるように、首をかしげる。まだ赤いそこを、さらす。
 「お・ま・え・と・いっ・しょ」
 翠がうそぶき――そこへ。
 みぎわに見せつけるように、幹の首すじに、その牙をつきたてた。そうして、母親の乳房をさぐりあてた赤んぼうのように、目を細めてやがて閉じて、そうして――。
 翠の喉が、ぐびりと動く。幹が、陶然としたようすで、目を半開きにして、翠の肩に手をのせる。協力するように。

 幹のくちびるが、わずかにひらく。

 それは、めまいのする光景だった。

 やがて、翠のくちびるがなごりおしげに首からはなれると、幹は、ゆっくりと息をつく。くちびるをしめらせて、
 「だいじょうぶだよ。摂るもの摂ったからすぐ熱もひくし、そうしたら引っこむから」
 無意識のうちにそのあたりを、牙のかたちをなめてたしかめていたみぎわに、とりなすように言う。

 「微熱つづいてたでしょここんとこ」
 「動悸、発熱、めまい。異性を目にしたときに、とくにひどい」
 「こころあたり、なかった」
 ふたりにたてつづけに聞かれる内容。よくわからないまま、みぎわはぼんやり答える。
 「あ‥‥でも、それは」
 「うん。真荘さんが相談にきたんだ」
 「幸ちゃん‥‥真荘さんが?」
 うん、と幹はうなずいて、みぎわのとなりに腰をかける。
 「みぎわくんとね、つきあってるんでしょ。そのことで相談があるけど、教師やなんかにはちょっと言いにくいからって。みぎわくんのようすがおかしいって」
 くすっと笑って、
 「みぎわくん真荘さんのこと、ものすごい目で見るときがあるって」
 「自制心すっとばしてたわけだ。この餓鬼が」
 「翠さん」
 「だろうが。餌に悟られてどうする」
 「餌‥‥って!」
 おもわず声をあげる。翠がふんと鼻で笑い、幹が、ああ、と頭をかかえる。
 「ちょっと、話がずれて――」
 「どういうことですか、餌って、そんな言い方ないでしょう!」
 「餌は餌だ」
 「翠さんっ」
 「みぎわくんおちついて」
 「幹、さん」
 「みぎわくん」
 「これがだまってられますか」
 「牙も生えそこなった餓鬼がいっちょまえの口きいて」
 「翠さん。ちょっと、ふたりとも、ちょっと待って。これじゃ話がすすまない。みぎわくん」
 まあすわって、と言われ、腰をうかせていたことに気づき、翠をにらみつけたまま、みぎわは椅子に腰をおろす。
 「翠さんも、ちょっと黙っていてもらえますか。あなたのもの言い、みぎわくんを刺激するばっかりだ」
 翠がふいと横
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