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フルーツ三話より「茘枝 −智博−」

 まだこどもの、ぽちゃぽちゃしたみじかい指が思いがけない器用さで、つるり、くるりと皮をむく。かたい赤黒い色の皮をぱきぱきと音をたててむいてゆくと、なかからつやのある白く濁ったまるい実が出てくる。弾力のある実に舌をあて、下の歯が種をとらえたところでくいと種にそって実をはずして、種はそのまま皿におとす。
 あまり、これを食べたいあれがいやだと言う子ではないけれど、きらいなものだとまったく手をつけない。そんな智博の、このリズムを感じさせる食べかたからして、きっと気にいっているのだろう。枝のまま水道の水をざっと流しただけの茘枝が、どんどんなくなってゆく。
 ものを食べていないときの智博は、その口をわたしを罵るためにしかつかわない。ブス。ばか。死ね。それまでは両親にも向かっていたのだろうけれど、いまはわたしひとりがターゲットになっている。貧弱な語彙でせいいっぱい、なんとかわたしを傷つけようとする。けれどわたしはもう慣れてしまって、はじめてこの家にきたときみたいに智博のことばにいちいち顔をひきつらせたり、家にかえってから泣いたりすることもなくなった。
 それがよけいに智博の気に障るのかもしれない。
 智博が茘枝をぜんぶたいらげてトイレに立つ。手を洗いに行ったんだろう。あとかたづけをするような子でないことはわかりきっているから、わたしはテーブルいっぱいに投げちらかされた茘枝の皮をあつめて袋にまとめ、台ふきんでざっと果物の汁をぬぐいとって流しに立つ。ふきんをゆすいでもういちどテーブルをきれいにふいて、袋いっぱいの皮と種を流しの下の生ごみ入に捨てようとして、思いなおしてベランダに出してあるごみ袋のほうに入れてしまうことにする。持ち重りのする袋をさげてベランダに出ながら、こういうのをやせの大食いっていうんだなとわたしは思う。どこへ入ってゆくんだろうとふしぎになるくらい、智博はよく食べる。満腹になるまえにじぶんの食べているものがつきることが許せないから、智博になにか出すときは、いつも大皿に山盛りにしなけりゃならない。好ききらいがひどいうえに、好きなものでも気まぐれで食べないときがあって、智博の食事のしたくは賭けの要素が大きいといつも思う。このうちのエンゲル係数がどうなっているのか、知ろうとも思わないけれど。
 わたしの仕事はごはんを作ることまでで、智博の家族と食卓をかこんだことはないけれど、好きなおかずだとそればかり食べて、ほかのひとのことなどおかまいなしだと智博の母親は言っていた。偏食のひどい子で難儀すると思うけど、よろしくね。
 智博がソファにごろりと横になる。
 たまねぎをむいているところへ、うしろから声がかかる。
 「晩飯は」
 「酢豚と蟹玉、春雨のサラダ」
 「酢豚あ? ‥‥ゲロの味」
 「パイナップルは入れないわよ」
 「ドロドロしてて超不味い」
 「そのかわり蟹玉が超特大」
 舌打ちの音がする。智博があんかけがあまり好きでないことをわたしは知っている。でも今日は酢豚を母親にリクエストされている。野菜を切っていて、つくりおきの餃子の皮がまだ冷凍庫にあったのを思いだした。雲呑スープもつけよう。智博は雲呑の喉越しが気に入っているから、具を少なめにして残りの皮をぜんぶ使ってしまっていい。しいたけと春雨もいれて。
 智博はカレーやシチューのたぐいもあまり好きではない。こどもはたいていそういうものが好きだと思っていたはじめのころ、わたしはそれでよく失敗した。ミンチ料理もきらいで、肉そぼろの鉢を壁に投げつけられたときは掃除がたいへんだった。好きなのは魚の煮つけときんぴらごぼう、でも父親がごぼうをあまり好きではない。
 智博の好みははっきりしている。母親がもっとも不得手な薄味の和風料理、澄ましの味にはことのほかうるさい。パンはふた駅むこうのベーカリーでその日のぶんだけ焼いているバターロールしか食べない、それ以外は乾いたスポンジだと言う。にんじんの浅漬けはあんまり気にいったものだから、あとで母親に作りかたを教えるはめになった。
 スープの味をみているところへチャイムが鳴る。わたしは火をとめて玄関へゆく。
 「おかえりなさい」
 「ただいま、智くん、いるの?」
 智博の母親はきれいなひとだと思う。それにがまんづよい。
 「おみやげがあるのよ、智くんの好きな坂城屋のおまんじゅう」
 にっこり笑ってダイニングに入ってくる。こんなにきれいに笑うことのできるひとはそういない。ことに、智博みたいな子をもって、それでも毎日、まるで問題などないように、ふつうに息子に話しかけることなんて、わたしだったらきっとできない。仕事でなかったら、智博みたいな子とは一日だってつきあえないだろう。
 けれど、すくなくともわたしは、智博の
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