これから、どうしたらいいんだろう。
目がさめたら、もしかしたらなにもかも夢だったみたいに、ほんとはなにもなかったみたいに羽が消えてやしないかと、あたしは願っていたんだと思う。だって、目のさめるよりさきにあたしをとらえたからだのうずきに、あたしはやっぱり悲しかった。ちゃーちゃんの手が、なぐさめるみたいにあたしの髪をなでてくれていて、でもあたしは悲しかった。
あたしの羽はそのまま、背から生えていた。鏡なんか見なくても、あたしのからだでそれを感じていた。あたしはほんのすこしからだをうごかすのにも気をつかわなけりゃいけなかった。
ちゃーちゃんはあたしのからだを抱いていてくれた。かけぶとんはあたしの腰までしかおおっていなかったから、上半身が冷えないように、ちゃーちゃんはあたしの胸に胸をおしつけて、それから肩を抱いていてくれた。あたしの背にはふれないように、そっと気をつかって抱いていてくれた。あたしは口をひらいて、喉がかれているのに気づいた。ごくりとつばを飲みこんで、やっとあたしは声が出せた。かすれた声。
「‥‥おはよ」
「おはよ‥‥どう」
「どうって」
「からだ」
「――まだ、熱い‥‥けど」
言ってあたしはちゃーちゃんからほんのすこし、からだを離す。だってこのままだと、また。してほしくなる。
あたしのいやらしい羽は、いまはぴったりたたんだかっこうで背にくっついていたけれど、それでもちょっとでもふれたらきっとまたおなじことになるだろう。それはなんとなくわかった。
「‥‥これから」
ちゃーちゃんがあたしの目をのぞきこんでつぶやいた。
「これから、私とよしか、ずっといっしょだね」
「‥‥え?」
ちゃーちゃんがあたしにキスした。ふれるだけの軽いやつ。
「だってそうでしょ。そんなものつけたままどうするの、私よしかのことほっとけない。そんないやらしいものむきだしにして、いつどこで悶えだすかわかんないような子、ひとりで外に出せないよ」
ちゃーちゃんはあたしの髪をなでる。
「ふつうの服きられないでしょ、それじゃ。学校も‥‥もう行かれないかもしれない。かーさんととーさんがなんて言うかわかんないし、でももしお医者いけとか言われたら、私よしかをぜったいに守るから。そんなことさせないから。でもそうなったらかーさんたちとも全面戦争だよ。これから――どうなるかわかんないよ。一生のことだよ。よしか覚悟しなきゃいけないよ。いい?」
「いい、って‥‥」
「私が守るから。なにがあっても。これからずっと、よしかのこと。だからよしかも私とずっといっしょにいて。いい?」
あたしはまだ、あたまがぼうっとしている。ちゃーちゃんの言うこと、わかってるはずなのに反応できないでいる。
そんなあたしにじれたのか、ちゃーちゃんが、いきなりあたしの背すじをなであげた。一本の指で、腰から肩甲骨のすぐ下まで、すうっと。そしてその先――羽、へ。
「――っ」
あたしは背をしならせて、その動きに羽がシーツにこすれて、また腰がびくっとはねる。ちゃーちゃんが喉のおくで笑う。笑って言う。
「わかった? こんなこと私以外のだれにもさせちゃだめだからね。私以外のだれにも、よしかのそんな顔見せないからね。覚悟してよ」
「‥‥ちゃーちゃん」
「なに」
「おねーさんだね」
「ばか」
「え?」
「ちゃんと答えなさい」
「‥‥」
「もう決めたんだからね。さっきのよしか見て決めたんだから。あの顔を見ていいのは私だけだって」
「‥‥」
「よしか」
それでも答えないあたしに、またキス。長いキス。くちびるが離れそうになるのへ、あたしはおいすがらずにいられない。もういちど。もっと。
「――もっと」
「うん」
「ちゃーちゃん」
「うん」
「離さないで」
「うん」
「なにがあっても」
「うん」
離さないで。あたしの希い。たったひとつの。いつもあたしが抱いたときにちゃーちゃんが言ってたことば。それはいつも、たったひとつの、あたしのことば。あたしがいつも、いちばん言いたかったことば。
そして。また、あたしの腰をちゃーちゃんの指がなでて、それが、しゅっと前にまわる。汗といろんなものでべとべとになってるとこへ。
息をのんで目をつむったあたしの耳に、ちゃーちゃんの声。
「あとでおふろはいって、それからかーさんに説明、しなきゃ、ね」
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