ときどきわかんなくなる。かーさんたちがにぶいのか、それともあたしたちの猫っかぶりが完璧なのか。
だってあたしにだっていちおう、じぶんたちがいけないことしてるって自覚くらいはあるから。
あたしたちふたり、生まれたときからどころか、かーさんのおなかにいるときからどころか、かーさんのおなかのなかでできたときからいっしょ。だってあたしたち、もとはひとつの卵だった。なにかのはずみでふたつに分かれて月みちて、かーさんのおなかから外に、さきに出てったのがおねーさんの高原美咲(たかはらみさき)、あたしはちゃーちゃんって呼んでいる。あとから出てったのがあたし、いもうとの高原芳花(たかはらよしか)。だからあたしたちは一卵性双生児ってことになる。とっても仲がよくって、いつでもいっしょにいる。ちっちゃいときから、おもちゃの取りあいなんてしなかったし、おそろいの服もふたりして喜んで着てた。かーさんやとーさんがふたりを取りちがえたりすると、怒るよりきゃあきゃあ言ってうれしがった。
でも、いくらなんでも、十五歳の娘がふたり、いつもいっしょにおふろに入るのって、ちょっとおかしいんじゃないかってかーさんたちは思わないんだろうか。いくら、ちっちゃいころからとっても仲良しのきょうだいだからって。ほかのうちではどうなのか、おんなきょうだいのいるクラスメートに聞いてみたことはないからわかんないけど。
たまにそんなこと考えてみるけど、考えてもわかんないからあたしはそのまんま、きょうもいっしょにおふろに入って、きょうもちゃーちゃんをうしろからつかまえてこっち向かせて、しろい首にくちびるよせて、鎖骨にキスする。左手はちゃーちゃんのおなか、おへそのまわりをひとさし指と中指の二本だけでつーっとたどっていってて、ちゃーちゃんはまゆをよせて、ひっしになって声たてないようにしてる。ぴくん、ぴくんっておなかの筋肉がはずんで、おなかのうらがわで、ちゃーちゃんのなかで、なにかちゃーちゃんでないものがぴくぴく、いまにも生まれようとしているみたい。右手はそんなちゃーちゃんがのけぞったはずみにどっかに体をぶつけてしまわないように、背をささえている。でもその手にもちゃーちゃんは感じてしまっている。まあ、あたしが手のひらにぬりつけておいたボディソープのせいもあるんだけど。じわじわと背骨にそって、右手をゆっくりうごかしているせいもあるんだけど。その手がときどき、ついとすべったふりをして、わきにまわるせいもあるんだけど。
まだお湯につかってもいないもいないちゃーちゃんの肌が熱くなってきてる。
「おねーさま、いろっぽいわあ。いじめたくなっちゃう」
あたしがちゃーちゃんの耳にささやきこむと、ちゃーちゃんはからだをふるわせて、すこしだけ口あいて舌をのぞかせる。喉がかわいてるみたいにくちびるをなめるしぐさに、あたしはぞくぞくしてしまう。
「お肌しめってきてるし‥‥目がえっちになってきてる」
言いながら、あたしはキスをつづける。ちゃーちゃんはそのたびにびくびくふるえる。うなじをかくしているほそい髪を舌先でおしのけるように、あたしがうなじを下から上へ、すこしななめに舐めあげると、
「あ‥‥や、んっ」
と、こらえきれないちいさな声をもらす。
「うっわあ、そそる‥‥けどちゃーちゃん、おふろ場って、声ひびくのよねえ‥‥」
かーさんにばれたくないっしょ、って、あたしはついちゃーちゃんをいじめてしまう。言いながら、でもそのせりふのあいだにキスをやめない。やわらかい首に、たくさんたくさんキスをする。耳のつけねにも、うしろにも。それからまた下がってって、肩からおりてく。
「ん、んっ、よし‥‥あ‥‥っ」
「なあに、よしてほしいの? やめる?」
やめていいんだ、じゃおしまいにしよっか、とちゃーちゃんの肌にくちびるつけたまま、つぶやく。ほんとはちがうことを言いたがっているのはわかっていて、わざと言う。肌にすいついたままのくちびるの動きに不明瞭になるささやきの意味をとらえるよりさきに、ちゃーちゃんのからだはあたしのくちびるの動きにふるえてしまう。
「やめたほうがいいんなら――」
「や、ちが‥‥よし、‥‥う‥‥」
ほんとは『よしか』って言いたがってるのを知ってて言わせない。あたしの名を呼びたくて、でもはずむ息の間に呼びきれなくて、ちゃーちゃんの目に涙がにじむ。あたしのキスを、肌にじゃなく口にほしがって、でもそれがやってこないことを知って、よわよわしく首をふって、閉じかげんのまぶたの下から、それでもひっしになってあたしを見てる。じぶんとおんなじ顔のあたしを、ちゃーちゃんは見てる。じぶんとおんなじ顔をして、じぶんとおんなじ声をして、じぶんのしてほし
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想