首筋が腫れていた。
顔を洗ってコンタクトレンズを入れ、鏡を見たときに、耳から指一本分下のあたりが赤くなっているのに気づいた。虫に刺されでもしたのだろうか、ぷくりとふくらんだ、その中心に傷があるようだった。首をかたむけてみたが、角度がわるくてよく見えない。
部屋にもどってそこらをひっかきまわして、ようやく手鏡を見つけ、洗面所で合わせ鏡にして首を点検してみた。腫れの頂点にぷつりと針で突いたような跡がある。痛みもかゆみもないが、ひとまず軟膏をぬっておくことにした。
翌日も腫れは引いていなかった。
そうして三日か四日たったある朝、なにか喉が圧迫されているような息苦しさに目がさめた。
首に手をやると、はっきりとわかるほどに熱をもっていた。つばを飲みこむときにわずかな抵抗がある。そうっと押してみると、水風船のような、たよりないやわらかさが指に感じられる。水泡だとすると下手にさわってつぶしてもいけないだろう。会社の帰りに医者に寄ることにして、とりあえずガーゼをあててテープを貼った。
昼休み、弁当を食べているときに、首の水泡がぶつりと破れた感触があって、じわりと染みだしたぬるつきがガーゼをぬらしたのがわかった。食事を中断して洗面所へゆく。洗面所でガーゼをはいだときに、なまあたたかいものが首をつうっと伝った。ぞくっとして、ハンカチで傷口をおさえる。痛みはまったくない。出血などもしていないようだった。家からもってきていた新しいガーゼにかえて、古いのを見ると、白熱灯のもとで透明の粘液がきらりと光った。くず入に捨てて、手をあらった。
首をまわすと、わずかにつっぱる。
手を首にあてたとき、ガーゼの下で、なにかがちくりと指を刺した。
二度、三度とその感触はつづき、そして、いきなり消えた。
こわばった指の下、ガーゼのむこうがわで、なにかが動いた。
うしろで扉が開いた。びくっとしてふりかえると、同僚がいぶかしげにこちらを見ていた。とっさに首をかばい、個室に入る。鼓動が早い。そっと手をはずすと、針でついたように指先から血がにじんで珠をつくっている。
その奥からじわりじわりと透明な液体がにじみ出し、血の色を透明に染めかえてゆき、やがて血の色はすっかり消えて指のうえにちいさな透明のしずくが溜まった。
そうして、その透明な血のなかで、なにか、ちいさなまるいものが、ぴちゃり、ぴちゃりとのたうっていた。
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想