まゆはファズが大好きだ。テレビシリーズ
の一回目に、みどり色のふわふわもこもこの
目ばかりぎょろりと大きい生きものが出てき
て、それが遠慮がちに弾いたアコーディオン
みたいな情けない声でふぉんうぉんと鳴いた
ときに、いっぺんで好きになってしまった。
ファズは隕石にくっついて落ちてきた宇宙生
物。ファズはうれしいときにはふぉんうぉん
と鳴く。悲しいときにはうぃいいん、と鳴く。
ファズは雨がきらい。水にぬれると溶けてち
いさくなってしまう。ファズは森で暮らして
いる。晴れた日にはひなたぼっこをして、雨
が降ると木陰に逃げる。
　あんまりファズのことばかり話しているも
のだから、先生はまゆにファズのぬいぐるみ
をくれた。まゆの背たけくらいあるそれは窓
のそばにおいてあって、まゆは毎日そのうえ
に寝っころがってごろごろする。ぬいぐるみ
のファズのおなかにはビーズがつまっていて、
寝がえりを打つとざりざりいって気もちがい
い。
　ファズは森でくらしている。まゆは森を見
たことはないけれど、楽しそうなところだな
と思う。森には木がたくさんある。草もたく
さん、花もたくさんはえている。動物もたく
さんいる。まゆは動物はうさぎしか見たこと
がない。先生がくれたまっしろなうさぎは、
二時間充電すると一日中ぴょんぴょんはねま
わっている。ときどきまゆはうさぎを抱いて、
ファズとどっちがやわらかいのかなと考えて
みる。
　ファズは森で暮らしている。まゆはカプセ
ルで暮らしている。カプセルには窓がひとつ
ついている。まゆのほしいものはなんでも、
まゆの眠っているあいだに先生がカプセルに
入れてくれる。テレビもうさぎもファズも。
テレビはいろんなものをまゆに見せてくれる。
まゆの行ったことのない森や見たことのない
宇宙生物のファズを見せてくれる。
　きょう、ファズの番組が最終回だった。母
星から迎えがきて、ファズは仲間といっしょ
に帰っていった。ファズはふぉんうぉんと鳴
いていた。
　番組がおわって、先生からのメッセージが
入った。
　おやすみなさい。よい夢を。
　きょうは長い夜なんだなとまゆは思った。
夜にはふたつ種類があって、長い夜のまえに
はいつも先生がメッセージを入れてくれる。
水も食べものもたくさんはないから、何週間
かにいっぺん長い夜がくる。
　ファズのおなかに頭をのせて、まゆは考え
てみる。
　つぎに朝がきたときには、母星までの距離
はどのくらいになっているだろう。

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