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さなぎ

 強化ケースのむこうがわ、わずかに色のつ
いた液体のなかに浮かんでいる。
 背をまるめて膝を折り、両腕を胸のまえで
交差させたかっこうで、からだのあちこちに
コードをつけられたそれは『結晶』と呼ばれ
ている。
 センターに勤める叔父がはじめてカヤに
『結晶』を見せてくれたとき、カヤはまだ三
歳だった。これはやがておまえのものになる
んだよ、そう叔父は言った。
 それから何か月かにいちど、叔父はカヤを
センターにつれて行って『結晶』を見せてく
れた。『結晶』はいつもかわらない姿勢でケー
スのなかにいた。
 なぜこの子は目をあけないの、そうカヤが
たずねると、叔父は、眠っているからだよと
答えた。いつまで眠っているのとたずねると、
わからないと答えた。『結晶』はいつ見ても
眠っていた。この子は髪はのびないの、そう
カヤがたずねると、いいやのびるよ、ひと月
にいちど切ってやっているよと叔父は答えた。
のばせばいいのに、とカヤが言うと、そうだ
ね、いずれねと叔父がうなずいた。いずれっ
ていつとカヤがたずねると、さあと叔父はほ
ほえんだ。カヤは『結晶』のみじかくそろえ
られた金褐色の髪をさわってみたいと思った。
 カヤが成長するのとおなじ速さで『結晶』
は成長していた。カヤが上の学校にあがるこ
ろには、『結晶』の手足はすんなりとしなや
かにのびていた。髪はみじかいままで、けれ
どあごの線などから子供くささがぬけてきて
いた。
 カヤは毎週のように学校の帰りにセンター
に寄って、『結晶』の成長を見ていた。

 目がさめてしばらく、カヤは動けなかった。
無理をしてはいけない、と叔父が耳もとでさ
さやいた、その姿も見ることはできなかった。
まだからだに慣れていないのだから、と叔父
が言った。二日めにようやく片手をもちあげ
ることができた。細い手はおどろくほど白かっ
た。その手で髪にふれると、想像していたよ
り硬かった。髪をのばそう、とカヤは思った。
叔父が、からだのぐあいはどうかとたずねた。
カヤはまだ口をひらくことはできなかったけ
れど、なんとか顔をむけることはできた。
 『結晶』はもういない。カヤのためにうま
れて、カヤのためにからだを液体のなかに浮
かばせていた『結晶』は、カヤが手術にたえ
られるほどに成長したいま、カヤのからだに
なった。
 鏡がほしい、とカヤは思った。『結晶』の
目の色をカヤは知らなかった。目をひらいた
その顔に会いたい、『結晶』に会いたいとカ
ヤは思った。
11/07/14 00:20更新 / blueblack

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